三浦醸造所

自然の恵みに感謝し、共に育て、作り味わうこと、
想いを伝えあうことを大切に。

五代目が実践する農業

当醸造所の所在地周辺の地形はなだらかな傾斜地で、自動車で数分程度の所にはスーパーや工場などもありますが、大部分は昔ながらの田園風景が広がっています。私の所有する農地は自転車で5分以内の所に4か所、面積は全部で約120aほどです。そこで無農薬・無肥料や省農薬による栽培方法で稲、麦、大豆、野菜、果樹などを育てています。

ご存知のように農薬(殺虫剤、殺菌剤、除草剤)を使用すると作物に残留する恐れがあるので出来れば使用したくありません。しかし、農薬の使用をやめると虫が付いたり、作物が病気になったりします。もちろん、密植をさけて作物の一株一株、葉の一枚一枚に日光を充分に当ててやり、ゆっくりと時間をかけ健康に丈夫に育てればある程度は防げますが、多収は望めません。見栄えの良さや大きさなど、スーパーに並んでいるものとは外見的にも異なっているので、市場価値もありません。しかし、そのものが本来持つ美味しさを備えた、安全な作物が栽培できます。それは、化学肥料過多で葉物に肥料成分が残ったり、窒素成分の過剰吸収によって味が落ちたりしたものとは、比較にはならない美味しさです。そこには、果たしてこれを同じ作物と呼べるのだろうか!?と疑うほどの歴然とした差が存在しているのです。安全で美味しい作物を作るために、私は可能な限り農薬や肥料などの使用を少なくし、作物本来が持っている力を引き出せるような栽培方法を取り入れています。現在、野菜に関しては、窒素成分の多い家畜の糞尿や微生物の入った土壌改良剤などは一切使用せず、もみ殻や草と米ぬか、水を混ぜて作った自家用堆肥のみで栽培しています。作物によっては、除草と保水の事も考えて稲藁、または黒いポリエチレンシートで土の表面を被覆しています。

稲作は、晩生種のヒノヒカリを栽培しています。もち米や酒米も栽培していますが、年により栽培面積は異なります。田んぼの一部のみ(10a程度)無肥料・無農薬栽培で行っています。本当は全てをそうしたいのですが、労力的な問題もありぎりぎりの選択として、残りの田んぼ約100aについては省農薬による栽培をしています。除草剤・殺虫剤・肥料は、中期に各1回行っています。それでも稲に土地の微量成分を吸収させるように地力で育ててやれば、ある程度の味は保てると思います。

無肥料・無農薬栽培に取り組み始めた当初は、夏場の田んぼのヒエや多年生の草の勢いに負けてしまい放任してしまった事もありました。夏場の草に勝つことが成功のカギだ!ということを痛感した私は、その後様々な除草方法を試みました。

まず、デッキブラシに数本釘を打ち、稲の株を足の間に挟むように立ってブラシを左右に振る「デッキブラシ作戦」です。こうすることで雑草を水の上に根こそぎ浮き上がらせ、枯らしてしまおうという方法です。「おおっ、これはいいぞ !! 」と思ったのは最初のうちだけでした。うまく除草出来たと思っても、濁った田んぼの水が落ち着いて澄んでくると、取り残した草が「へへへ~」と姿を現すのです。近くを散歩しているおばちゃんや近所の農家のおっちゃんに「そんなもん振って、なんしよんで??」と不思議そうな顔で聞かれることもしばしばでしたが、この作戦はひと夏で幕引きとなりました。

次は、回転式除草機(エンジン式)で田の草を取ってから、筋状に残る機械では取りきれない草を手作業で取る方法です。夏場、外で行う日中の作業は大変厳しく疲れるので、出来るだけ早朝や夕方にするようにしています。ところがこの作業は恐ろしく時間がかかるので日中も行わざるをえません。背中にじりじりと照りつける太陽、「疲れたので一休み……」と思ってもそこはたんぼの真ん中、しゃがむことも座ることもできません。取っても取っても、嘲笑うように「まだあるよ~!」と水面に顔を出している草・草・草!気が遠くなりそうです。この作業を私たちの地域では昔から「田んぼを這う」と言います。除草剤が無かったころの米農家は最初から全てこの作業をやっていたんだなあ、と思うと改めて昔の農家に敬意を払いたくなります。五年ほどはこの作業を続けたでしょうか。今考えても、これが一番苦しい作業だったと思います。

この苦しさに代わる次なる方法は、「草は草をもって制す!ヨシガヤ作戦」でした。吉野川の河川敷(車で10分程度の距離にあります)に行ってヨシガヤを刈り取り、その場で1日天日干しにした後田んぼに運び入れるという方法です。ヨシガヤが雑草の生育を抑えると同時に肥糧成分にもなるという一石二鳥を狙った作戦でした。刈り取ったばかりのヨシガヤは水分を含んで重いので、一日天日乾燥して軽くしてから軽トラックに積み込んで田んぼに運ぶようにしました。気合いを入れ、無心でヨシガヤを刈り取っている私。……ふと視線を感じて振り向くと、道路パトロールの車、中に乗っている監視員の不審そうな眼。どうやら不法投棄をしている人物ではないかと疑われているようです。しかし聞かれもしないのに「あの、これは……」と説明をするのも余計誤解を招きそうだったので、黙々と作業を続けることにしました。しばらくすると、容疑も晴れたのかパトロール車は行ってしまいました。翌日乾燥したカヤを田んぼに入れましたが、一度の作業では不十分です。そこで後日また河原へ出かけ、カヤを刈り、あたりに広げて干して帰ってきました。さて、次の日。天気予報は見事に外れ、雨です。せっかく干したのに、でもまあ仕方ないな、明日また乾かして……と思っていたら、また雨です。しかも大雨。晴れ上がった後に河原に出かけてみると、苦労して刈り取った大量のカヤは「洪水と共に去りぬ」でした。ヨシガヤ作戦、ここに終了。

しかし、こんなことでくじけては美味しいお米は作れません。次なる作戦は、近所の農家から大量に出るもみ殻や、精米所から買って来た米ぬかを、田植え直後の水田に何度か散布するという「風よ吹け吹け!兄弟仲良く助け合い作戦」でした。風のある日を選び、その風にのせてより広い範囲にもみ殻や米ぬかを散布する効果を狙います。それらで水面を覆い田の草の発生を遅らせることと肥糧成分を与えることを試みました。しかし、田の草を満足のいく状態までに抑える事は出来ず、無念の涙をのみました。

他にもいくつもの作戦を試みましたがこれといった目覚ましい成果を上げるものはなく、現在は、労力・時間・収量について総合的に考え、除草がしやすいように田植えの方法を工夫しています。慣行農法におけるオーソドックスな田植えのスタイルである条間30㎝の並木植えではなく、条間30㎝・株間24㎝にします。これは通常よりも株間が広く、昔の手植えにによる田植えとほぼ同じ間隔です。そして幅の広い縦方向は回転式除草機、横方向は手押しのコロ(田車・手動の田の草除草機)を使って除草します。少しは草が残ってしまいますが、あまり害がなさそうならそのままにしています。

現代の農業では密植による多収をねらいますが、私の田んぼでは薄植えをして、一粒一粒の米がのびのびと、元気に大きく育つようにしています。結婚前に、妻が初めて私の家でご飯を食べたとき、出された茶碗の中を見てすぐに「このお米、粒が大きいねぇ!」と言ったことがあります。その後も友人や妻の教え子などに我が家のご飯を出すと同様の意見や「このご飯、甘い!」という感想をいただくことがあります。味噌・醤油はもちろんそうですが、お米にしろ野菜にしろ、自分の作ったものを美味しいと喜んで食べてもらえるのは何にも勝る幸せです。除草作業は相変わらず楽ではありませんが、家族の笑顔や食べてくれる人の反応を励みにがんばっています。

畑については約10aほどの面積を無肥料・無農薬で栽培しています。我が家は家族全員が野菜も果物も大好きなので、栽培している種類は多い方だと思います。ごぼう、人参、じゃがいも、パセリ・イタリアンパセリ・バジル・ローズマリー、里芋、さつま芋、ゴマ、いんげん、茄子、トマト、ピーマン、パプリカ、ししとう、オクラ、南瓜、西瓜、まくわ瓜、キュウリ、細ネギ、一本ネギ、ゴーヤ、とうもろこし、玉ねぎ、大根、聖護院大根、キャベツ、白菜、山東菜、小松菜、水菜、青梗菜、ほうれん草、ブロッコリー、カリフラワー、サヤエンドウ、そら豆、苺など。果樹は柿、梅、びわ、すもも、プラム、あんず、イチジク、ぶどう、キウイ、夏蜜柑、ざぼん、そして徳島名産のすだち。

無肥料・無農薬ですから鳥も虫も大好きです。(中にはカラスのように食べもしないピーマンや茄子の一番花をついばむという嫌がらせをする輩もいます。)私たちの口に入る前に、ほとんど先客に食べられてしまい「……食べられる所がない。」と収穫を断念するものも出てきます。しかし、味は本物です。娘が2、3歳の頃、食事の準備をしていると、娘は「お味見で~す」と言いながら近づいてきて、横から野菜をポリポリ……そして「甘~い!」とにっこり。いろいろな野菜を煮て作る妻のスープは調味料をほとんど入れません。野菜の甘みや旨みだけで十分だからです。焼肉をしても、「これじゃ焼肉か焼野菜かわからんねぇ」と笑ってしまうほど野菜を使います。妻と相談して決める食事のメニューも畑次第、お天気次第。頭を悩ませることもありますが、それも楽しい時間です。

「人はこれを最低の生活というが、これが最高の生活」

これが私たちの合言葉です。家族が好きなものをともに育て、収穫し、味わう。食卓には笑いと話題が尽きません。贅沢な日々だと思います。

農業を営んでいて日々感じているのは、明らかに環境が変化してきているということです。畑で近所の農家の人たちと言葉を交わすときにも、必ずと言っていいほど天候や環境に関する話題が出ます。季節外れの野菜の花が咲く、梅雨に雨が降らず、からりと晴れるはずの8月に長雨になったり、寒の頃に春の陽気になったりする。予想のつかない天候に振り回され、種まきが遅れたり、収穫を断念したりすることも増えてきました。こうしたリスクを避けるため、手間はかかりますが、種まきを2回に分けざるを得なくなりつつあるのが現状です。気候の変化は益々激しさを増しています。その中で、以前にはあり得なかった害虫の被害も出ています。例えば、カメムシです。これまで被害をほとんど受けることが無かった無肥料栽培の稲が、被害に遭うようになり虫に汁を吸われた米粒が増えたり、キャベツの中に大量のカメムシがついていたり(越冬するためではないかと思います)しています。その他にもネギやトマトやジャガイモに青虫がついたり、里芋にアブラムシがついたりします。これも温暖化の影響かもしれません。野菜の虫は手作業で取れても、稲の場合はそうもいかず、打つ手がなくて困っています。

自然相手の農業は、文字通り肌で自然の変化を感じ取ることが出来ます。ただでさえ環境に負荷をかけない農法を行うのが困難な現代において、それは難易度を増しているように思います。けれども、多肥・多農薬の農法に後戻りすることなく、自然を敬い、仕事が出来ることに感謝しながら理想の農業を追い求め続けていきたいと考えています。

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